過当競争にある施術業界でどうすれば生き残れるでしょうか

マッサージ事業者(マッサージ事業者、接骨院、鍼灸院、整体院等)は過当競争の状態にあり、実にコンビニ店舗数の2倍の事業所があります。どうすれば生き残ることができるでしょうか? 一体何が経営で大切なことでしょうか?

過当競争の施術業界

宮前平 腰痛,日本施術マイスター要請協会

2018年に発生したマッサージ事業者の倒産は93件で、過去10年で最多を記録しました。倒産した治療院の負債総額は約20億2700万円で、前年から2倍超に拡大。負債総額も過去10年で最多です。倒産した「マッサージ業、接骨院等」の半数は個人企業で、従業員5人未満が全体の9割を占め、小・零細規模が多いのが特長です。
その理由は「接骨院の乱立」です。過当競争が激しく、個人で開業しているような小規模企業の倒産が増えています。増えすぎてしまったために淘汰が起こっています。2016年現在でマッサージ院、鍼灸院、整骨院、整体院などは全国に計13万6460ヶ所。コンビニエンスストアの店舗数(2018年11月現在で5万5695店舗、日本フランチャイズチェーン協会調べ)の約2倍に達しています。つまり、増えすぎてしまったので淘汰が起こっています。

これは保険の不正請求の問題も引き起こしています。医師の診療報酬に当たる療養費で柔道整復師による不正請求が跡を絶ちません。柔道整復師はかつては養成校卒業後長期間の勤務期間を経てから独立開業するのが一般的でしたが、最近は資格を持った卒業生が十分な知識や経験がないまますぐに開業してしまい、厳しい淘汰圧の元不正行為に手を染めてしまうということが懸念されています。

過当競争の原因と結果

宮前平 腰痛,日本施術マイスター要請協会

治療院の乱立とその淘汰はマーケティングの問題であると言えます。マーケティングとは突き詰めていうと、いかにして差別化するかです。これだけ治療院が多いと、患者からするとどの治療院も代わり映えがなく同じように見えます。そのためなんとなく近くの治療院を選んだり、なんとなくスマホで出てきた治療院を選ぶということになります。
もちろん、そもそもの治療院の数が増えた原因は多岐にわたるでしょう。柔道整復師の国家資格を取得できる養成校が増えた、創業者支援の制度融資が安易な起業を増加させている、など。また、稼げなくなった治療院は給与や勤務時間などでスタッフから搾取する形で利益を上げていかざるを得なくなるので、搾取されるスタッフとしてはここにいてもしょうがないので早めに独立しなければならないと考える動機になります。
このように原因は複合的で、しかも因が果になり果が因になっているような状況ですが、それは制度設計する側の問題で、経営者としてはマーケティングに注力せざるを得ない状況になっています。

保険の不正請求の原因もやはり同じところにあります。過当競争です。過当競争により採算性が悪化するため、やむを得ず不正に手を染めてしまいます。
この原因は治療院の経営者が未熟であるためという説明もあります。一本立ちが早すぎるというわけです。この業界の識者はかつて5年から10年かけて一人前の施術者として養成し独立するという仕組みだったのに今はもっと早く独立してしまうことが原因だといいます。
その説明は一面は正しいのですが、唯一の理由であるとも言えません。結局これも過当競争の結果の一つであると言えます。前節と同じことの繰り返しになりますが、稼げなくなった治療院は給与や勤務時間などでスタッフから搾取する形で利益を上げていかざるを得なくなるので、搾取されるスタッフとしてはここにいてもしょうがないので早めに独立しなければならないと考える動機になります。
つまり、従来型の師弟関係や徒弟制度的な「一人前」の養成制度が、過当競争という今の現実に対して有効性をなくしてしまっているからだとも言えます。

生き残るための3つの柱

宮前平 腰痛,日本施術マイスター要請協会

このようにしてみると、この厳しい状況下で治療院が生き残っていくためには、3つの柱が必要であるというように言えます。

まずはマーケティングです。
治療院を差別化し、どの分野に強いのか、患者のどんな症状や悩みを解決できるのか、などです。またそれを適切なターゲットに対して適切な方法で届けなければなりません。

次に治癒力です。
いくらマーケティングがうまくて客がたくさん来ても実際の効果がなかったら意味がないです。またそれは単に技量が高いというだけではなく、客が納得し感動してくれなければなりません。そのため治癒力の内容はマーケティングと不可分であるとも言えます。

そして情熱です。
治療院は営利事業ですので治療院の経営者がお金を儲けようと思うこと自体は間違っていないのですが、上記のマーケティングや治癒力の関係などバランスを取ることが本質的に難しい業態であると言えます。そこでは今自分が行っていることに対してどのような想いを抱いているのかが大切になります。そうしないといろいろな情報や意見やニュースに右往左往してしまって、その間に過当競争に飲み込まれてしまうからです。情熱があるからこそ、自分自身にとっての適切なバランスのとり方が見えてくると言えます。

後進の指導

宮前平 腰痛,日本施術マイスター要請協会

このように、マーケティング―治癒力―情熱が三角形を形成していないといけないのですが、それにさらに時間的な変化を考慮する必要があります。それは後進の指導です。
治療院は設備投資に必要な金額が少なく、提供する商品は技能そのものであり、極めて属人的な仕事であると言えるでしょう。スタッフであれその他の人であれ、対人間という要素を抜きにして考えられないビジネスであると言えます。人間関係が良好であるとか、スタッフが和気あいあいとしているというようなことではなく(もちろんそれはそれで大切ですが)、人間がどのような仕組みを作っていて、そのなかで自分や他人がどういった役割(ロール)を果たしているのかということを構造として把握していないと、人間だけで組み立てられているこの仕組のどこかにほころびが出てきます。過当競争の淘汰圧はそのほころびを逃さないのです。
前述した保険の不正請求では従来の師弟関係や徒弟制度が通用しなくなったからという説明がなされていました。これを最近の若者は弟子として下働きをする我慢が足りないといった解釈の仕方をすると間違えてしまいます。過当競争の淘汰圧のもとで、師匠や徒弟といったロールを果たせなくなってきたと考えるほうが適切です。そのため師匠は利益のために徒弟を「喰い」、徒弟は喰われるよりも喰う側に回ろうと制度融資を使って準備不足のまま飛び出していってしまうのです。
自分がいかなるロールを果たしていくべきかというのは、動態的に見る必要があります。時間とともに変わっていき、相対的なものであると考えなくては現実に合わなくなります。師弟関係もある現実に対応するための仕組みとして考案され、支持され、そして有効性をなくしつつあるという過程にあります。それに変わる仕組みも同じであり、どちらが正しいから生き残って間違っていたからなくなったというものではありません。
現実に合わせてモデル自体もゆっくりと形を変えていくということですが、こういう言い方をすると抽象的すぎるかもしれませんが、幸い人間社会はこのことを昔から自然とやっていました。それは「後進を育てる」ということです。他人に教えるということは、自分自身の持っているマーケティング・治癒力・情熱を再度棚卸しして、整理し、他人に分かるように説明しなければなりません。そして後進は自分とは少し違う現実の中で教えられたことを実現しようとしているので、それを見守り手助けすることこそが、モデル自体がゆっくり変わるということです。